京大生ケミストのつぶやき

理系京大生が勉強中に思ったことを気軽につぶやきます。

有機化学 #2 ~Alcohol~ 

 こんにちは。今回は前回の続きでアルコールの物性や反応を見ていきます。

 

アルコールの物理的性質

水素結合を形成

 アルコールのOH基はOがδーHがδ+に分極しています。この分極によって水素結合が形成されます。水素結合は分子間力より強い相互作用なので分子量が同じくらいのアルカン等と比較すると沸点が高いのがわかります。

極性を持つ

 上と同じくO-Hが分極しているので極性を持ちます。さらに言えることが、極性をもつことで極性溶媒である水に溶けやすいです。

 

アルコールの酸・塩基

 アルコールのOH基はプロトンを与えることも受け取ることもできます。すなわち、弱酸にも弱塩基にもなることができます。それぞれ化学式でみていきましょう。

僕は強酸共存下での反応式に少し疑問を抱いてしまいました。それはオキソニウムイオンよりエチルオキソニウムイオンの方が強い酸なのにどうして強い酸が生成されるのだろうかというものでした。酸はできるだけプロトンを持っていたくないという考えのもとこの反応式を見ると、より強い酸であるエチルオキソニイウムイオンがプロトンを受け取る反応が直感的に納得できなかったんです。けれどここでは、硫酸のせいでオキソニウムが大量に存在しています。よってその大量に存在しているオキソニウムにプロトンを押し付けられると考えられるんですね。もしエタノールと硫酸の反応式であれば硫酸が明らかに強い酸なので直感的にも納得できたんですけど、オキソニウムが間に入るとすんなりと納得できませんでした(-_-;) ただこの後に出てくるハロアルカンへの変換においては硫酸は酸触媒として働きます。それを見据えてここでは反応式に硫酸を組み込まずにしていたのだということです。愚問に答えてくれた友達に感謝です^^

アルコールと低原子価金属(還元反応)

 反応性の高い金属が還元剤として働き自身は金属イオンになるとともに、酸化剤となるOH基がアルコキシドと水素分子になります。高校化学でナトリウムを池に投げ込んで爆発を起こす動画を見た方もいるのではないでしょうか。あんな感じの反応がアルコールでも起こるという話です。

アルコールからハロアルカン・スルホン酸エステルへの変換

 ここはSn reaction の復習になります。忘れちゃった人はここでまた思い出しましょう。過去に簡単に解説しているのでよかったら覗いてください。

有機化学 ~Sn & E reaction ~ めっちゃ基本 - 京大生ケミストのつぶやき

ハロアルカンへの変換

 まずハロアルカンへの変換ですが、ここではOH基をハロゲンに置換したいというモチベーションで反応を起こしていきます。

第三級、第二級アルカン

この反応機構をいくつかのステップにわけて理解していきましょう。

オキソニウムイオン(ヒドロニウムイオン)の生成

アルコールのOH基のプロトン

 臭化水素によって生成されたオキソニウムイオン(ヒドロニウムイオンとも言います)によってアルコールのOH基がプロトン化され活性化されます。言い換えればOH基が活性化されより脱離されやすくなったと言えます。

カルボカチオンの生成

 ここでC-O結合が開裂しカルボカチオンが生成されます。またこの反応が律速段階であり、ゆえにカルボカチオンの安定性が反応全体の反応速度に大きくかかわってくることがわかります。

求核剤との反応

 さいごに求核剤である臭化物イオンと反応して終了です。ということでハロアルカンを生成することができました。

 ではこの反応についてもう少し考えていきましょう。まずはこの反応がSn1 reaction なのかSn2 reaction なのかですが、律速段階に関与している分子は1分子だけでしたね。ということでSn1 reaction でした。まぁしっかり勉強している方なら第三級アルカンが反応物である時点でSn2 reaction がほぼ起こらないことはわかったでしょうが。Sn1 reaction は第三級、第二級アルカンで起こり得ますが第一級アルカンではほぼほぼ起こり得ません。先にも少し触れましたがこの反応の反応速度はカルボカチオンに大きく依存しました。そしてカルボカチオンの安定性は第三級>第二級>第一級となっているんでしたね。この詳しい説明は省きますが、キーワードはアルキル基による正電荷非局在化超共役です。あまり安定でない第一級カルボカチオンを中間体として経由する反応はあまり起こらないということなのです。では第一級アルカンでは何の反応が起きるのか?それを次見ていきましょう。

第一級アルカン、メチル

この反応についても反応機構を見ていきましょう。

アルコールのOH基のプロトン

 ここまでは先ほどの反応と同じです。

求核剤との反応

 ここでカルボカチオンを中間体として経由せずに求核剤の臭化物イオンと協奏的な反応を起こします。そしてここが律速段階になります。この律速段階において2つの分子が関与していますね。Sn2 reaction です。ということで第一級やメチルではSn2 reaction が進行するんでしたね。逆に第三級、第二級アルカンでは立体障害によりSn2 reaction は進行しづらいです。

少し発展~転位~

 今度は下の反応を見てみます。

炭素骨格が変わっていますね、、、。反応機構を見ていきましょう。

アルコールのOH基のプロトン

 ここまではいつも通り同じです。

カルボカチオンの生成

 ここでカルボカチオンが生成されますが、転位が起こっています。これはより安定なカルボカチオンを生成するためです。転位が起こることで結果としてとても安定な第三級カルボカチオンが生成されます。一方転位が起こらないとした場合不安定な第一級カルボカチオンが生成されます。もちろん100 : 0 = 第三級 : 第一級 のようになるとは言い切れず混合物が生成されるかもしれませんが主要生成物は選択的に第三級の方になります。

求核剤との反応

 最後に求核剤の塩化物イオンと反応してフィニッシュです。

 ということで、安定性を求めた結果炭素骨格が変わってしまうという反応例でした。

 PBr_3によるハロアルカンの合成

 この合成は第一級または第二級アルコールを反応物とした合成反応です。

あまり見慣れない PBr_3ですが生成物のH_3PO_3は見覚えのあるリン酸です。反応機構を一緒に追っていきましょう。

アルコールのOH基が求電子剤と反応

 OH基が求電子剤である PBr_3と反応して脱離能(図の漢字が間違えてますねm(__)m)が高い置換基になります。

求核剤との反応

 そして求核剤である臭化物イオンと反応してハロアルケンが合成されました。あともう2回反応を繰り返せば初めに示した反応式が得られます。

 この反応の特徴的な点が2点あります。1点目は反応条件が穏やかであるという点です。温度が0°Cでも反応するのは楽でいいですね。2つ目は転位が起こらないという点です。反応機構をみればわかりますが、これはSn2 反応機構です。よって立体反転はしますが転位はしません。炭素骨格を維持したいときはもってこいですね。

SOCl_2, SOBr_2によるハロアルカンの合成

 ハロアルカンへの変換はこれでラストです。結構長かったですね(-_-;) この反応も第一級または第二級アルカンを用います。

 三級アミンであるピリジンまたはトリエチルアミンを触媒に用いて反応を進めます。教科書に一部反応機構が詳しく載っていなかったので僕の考えた反応機構を一部載せてます(多分あってる、、、はず)。またピリジンを用いた場合の反応式を書いています(特に違いはないですけどね)。

ピリジンとの反応

アルコールの活性化

 SOCl_2と反応して脱離能の高い置換体が生成されます。なにか既視感がありますね。

求核剤との反応


 最後に求核剤の塩化物イオンと反応して終了です。

 今回の反応についても2点言及したいことがあります。1つ目は先と同じくSn2 反応機構であるため転位が起こらないということ、2つ目は生成物が目的物の他に気体の二酸化硫黄とピリジンと反応する塩化水素であるということです。これにより塩化アルキルを分離するときに問題が生じないという利点があります。

スルホン酸エステルへの変換

 ラストスパートです。ラストはスルホン酸エステルへの変換を見て終わりにしましょう。

 特に教科書には反応機構が載っていなかったので省略しますが、ピリジンの働きは先ほど見たものと同じなのでどんな反応機構なのか予想はできますね。あまり見たことがないようなスルホン酸エステルですが、どんなところに学ぶ意義があるのでしょうか。ヒントはスルホン酸アニオンがとても安定で非常に弱い塩基だというところにあります。答えはスルホン酸アニオンが優れた脱離基であるということです。スルホン酸エステルに変換することで求核置換反応やβ脱離反応を起こしやすくすることができるんです。

 

さいごに

 今回はこれで終わりです。少し盛沢山でしたかね?僕は反応式とか書かなきゃいけなかったので結構疲れました(;'∀') 特にハロアルカンへの変換の話が少し長かったのでしっかり復習してインプットしましょう。

 京都では桜の花が散り始めてきている時期になりました。ただ勉強へのモチベーションはそれと同時に散らないよう、程よくアクセルを踏み続けていきたいですね。では^^