京大生ケミストのつぶやき

理系京大生が勉強中に思ったことを気軽につぶやきます。

有機化学 #3 ~Alcohol~ 

 こんにちは。今回も引き続きアルコールについてです。(僕が)見たことのなかった反応とかが出てきますので、新しい知識を一緒に身に付けましょう!もちろん復習パートもあります^^

 

酸触媒によるアルコールの脱水

 酸触媒を用いてアルコールを脱水する反応をみてきます。これはE reaction ですので、復習パートです。

プロトン

 前回の記事を見てくれた方はもう見慣れている工程だと思います。いつも通りアルコールのOH基をプロトン化し活性化させましょう。ただし今回は酸触媒として濃硫酸を使用しています。よって水が少ないので反応式のオキソニウムイオンのところを直接硫酸で書いてもOKです!

カルボカチオンの生成

 水が脱離し、カルボカチオンが生成します。そしてここが律速段階となりますのでE1 反応機構であることがわかりますね。カルボカチオンの安定性がとても重要になります。今回は第二級カルボカチオンです。

プロトンの脱離

 最後、プロトンが取れて終わりです。cis とtrans の混合物が得られました。ここで今回は図の中でカチオンの左隣の炭素に結合しているプロトンが脱離しましたが、右隣りの炭素に結合しているプロトンが脱離してBut-1-ene が生成しないのか疑問に思った方がいるかもしれないので一応解説しておきます。結論から言うとほとんど考えられないです。それはザイシェフ則に従っているからです。この法則は置換体が多いアルケンほど安定で、ゆえに主生成物になるというものです。図にあるアルケンには2つのメチルが置換していると見ることができます。一方But-1-ene は1つのエチルが置換していると見ることができます。よって主生成物が決まるんですね。

アルコールを合成するための別の方法

 少し余談です。上ではアルコールからアルケンへの反応をみました。今度は復習としてアルケンからアルコールの反応をみてみましょう。

オキシ水銀化ー還元

 これはマルコフニコフ則に従う反応ですね。機構を見ていきましょう。

架橋マーキュリニウムイオン中間体

 二重結合のπ電子が水銀に攻撃して架橋マーキュリニウムイオン中間体が生成されます。どんな共鳴構造を取るか覚えていますか?

このようになります。左のカルボカチオンは2級、右は1級ですので、左のカルボカチオンの方が寄与が大きいです。

求核剤と求電子剤

 寄与の大きい方(置換基が多い方)で反応が起こり、求核剤の水と求電子剤の中間体との間に結合が生成されます。

最終処理

 最後にHgOAc を除いて終了です。ここのメカニズムはよくわからないです。

ヒドロホウ素化-酸化

 次はマルコフニコフ則に従わない、アンチマルコフニコフ則の反応です。

マルコフニコフ則に従っていればButan-2-ol が生成するはずですが、Butan-1-ol が生成していますね。メカニズムを確認しましょう。

求核剤と求電子剤

 モノボランBH_3では、ホウ素がδ+水素がδーに分極していて、ホウ素が求電子剤として働きます。求核剤のπ電子対がホウ素に攻撃してホウ素がアルケンの置換基の少ない炭素に、水素が置換基の多い炭素に結合します。この選択性の理由は、δ+のホウ素がアルケン置換基の少ない炭素に近づくことで置換基の少ない炭素が部分的にーに置換基の多い炭素が部分的に+になり、カルボカチオンとまでは言いませんがこれに似た安定性の議論が同様にできるからだと考えられます。この反応を後2回繰り返してホウ素が炭素と3本の腕で結合します。

ヒドロペルオキシドイオンとの反応

 過酸化水素水からのヒドロペルオキシドイオンと反応します。

転位

 今回で言うブチル基がホウ素の隣の酸素原子に転位します。R基ももちろん転位します。

最終処理

 すべての置換基が転位し終わるとホウ素と置換基の間に1つづつ酸素原子が挟まった状態になります。そして最後に水酸化ナトリウムで処理すればアルコールが合成できます。反応機構はわからんです。

 というわけで、復習パートは終了です。少し休憩したら次は見たことのない(?)反応を勉強していきますよ!

ピナコール転位

 2,3-Dimethylbutane-2,3-diol を例に見ていきます。これは2つのOH基が隣接しているグリコール(OH基を2つ以上持つアルコール)の脱水と転位ついてのお話です。メカニズムを一緒に追っていきましょう。

プロトン

 いつも通りOH基がプロトン化し活性化されます。脱離能が高まります。このステップはもう見慣れたのではないでしょうか。

カルボカチオンの生成

 活性化され脱離能が高まった置換基が脱離しカルボカチオンが生成します。脱離したのは水です。脱水ですね。

転位

 ここでより安定なカルボカチオンを求めて転位が起こります。すでに第3級カルボカチオンなので安定なのでは?と思うかもしれませんが、転位することで酸素原子のlone pair によって安定化されたり共鳴することによっても安定化されたりするため、この転位が起こります。すなわち第3級カルボカチオンでいるよりも、電気的な面と正電荷の非局在化の面の両面から安定化されるため転位した方が安定なのです。

プロトンの脱離

 最後にプロトンが脱離し、ケトンが生成して終了です。

 今回は対称性のあるグリコールについて見ましたが、非対称のグリコールについてはどうでしょうか。詳しい反応機構の説明は省きますが下のような反応があります。

最初のステップとしてOH基がプロトン化され活性化されますが、どちらのOH基が活性化されるのでしょうか?もう答えが書いてありますが、正解は図中の左側のOH基です。理由はそのあと生成されるカルボカチオンを考えればわかります。左のOH基の脱離→第三級カルボカチオンの生成、右のOH基の脱離→第一級カルボカチオンの生成です。わかりますね^^

アルコールの酸化

 詳しい反応機構は除いて、アルコールの酸化については高校化学でやりましたね。一級アルコール→アルデヒド→カルボン酸。二級アルコール→ケトン。三級アルコールは酸化されない。という話です。ここで特に重要な事項としてはアルデヒドが単離できるかできないかということが言えます。そこに留意しつつ酸化の反応を具体的な酸化剤とともに見ていきましょう。

クロム酸酸化

 まずはクロム酸を酸化剤としたアルコールの酸化を見ていきます。その前にクロム酸の生成について簡単に反応式を載せておきます。

このクロム酸を使うと以下の反応が起きます。

 第三級アルコールは酸化できず、またアルデヒドを単離して取り除くことができません。この反応機構を詳しく説明しますね。

クロム酸エステルの生成

 クロム酸エステルというのは見慣れないかもしれませんがエステル生成の反応としては全く特別なものではありません。ここでのクロムの価数はVIです。

酸化還元

 酸化還元反応です。第二級アルコールは酸化されケトンになりました。価数がVIだったクロムは還元され価数はIVになりました。

スワン酸化

 この反応はクロム酸化と同じ反応を示します。この反応では酸化剤として塩化スルホニウムを用います。

アルコールの活性化

プロトンの脱離

 トリエチルアミンを用いてプロトンを脱離します。

プロトンの脱離・結合開裂

 以上で反応は終わりです。出発の物質が第二級アルコールだったので最終的にケトンが生成されましたね。反応に必要な試料は (COCl)_2DMSO、トリエチルアミンです。

デス‐マーチン酸化

 この反応もクロム酸化と同じ反応を示します。

アルコールの活性化

 とてもいかつい構造ですよね。デス‐マーチンペルヨージナン(DMP)と呼ばれる化合物が今回の酸化剤です。具体的にはヨウ素の価数がVからIIIへと変化します。まずここではアルコールが活性化されています。

プロトンの脱離・結合開裂

 プロトンが奪われそれに伴い結合が開裂していきます。ここでヨウ素の価数がVからIIIへと変わっています(反応後のヨウ素のlone pair が1つ足りてないですm(__)m)。反応物は第一級アルコールだったのでまずは酸化されてアルデヒドになりました。クロム酸酸化と同じ反応を示しますのでここでアルデヒドを分離するということはできず、このままカルボン酸まで酸化されることになります。ちなみに僕の教科書ではプロトンを奪う化合物がトリエチルアミンでしたが、 O^-Acとしている文献もありました。

 僕は初めデス‐マーチンペルヨージナン(DMP)のヨウ素の価数はVIIだと思っていましたが、実際はVでlone pair のせいで勘違いしてしまっていました。酸塩基反応において電子の動きを追うことには慣れましたが、酸化還元反応において電子の動きを考えることにまだ慣れていなくてすこし悩んでしまいます(;'∀')

クロロクロム酸ピリジニウム

 これまでは第一級アルコールを酸化した場合アルデヒドを単離できずカルボン酸まで酸化されてしまう反応を見てきました。次はアルデヒドを単離できるすばらしい反応をみていきましょう!

 酸化剤として用いる化合物は上の反応式で得られるクロロクロム酸ピリジニウム(PCC)です。以下の反応が起こります。

なぜこの反応だけはアルデヒドを単離できるのでしょうか。注目するポイントは溶媒です。今回溶媒に水溶液は用いておらず有機溶媒を用いています。水溶液の場合どうなってしまうのか...?以下のようにほとんどが水和することになります。こうしてOH基が復

活(?)してこのOH基が再び酸化されることでカルボン酸まで酸化されてしまうわけです。しかしPCC酸化では得られたアルデヒドは水和しないのでさらに酸化が進むことがないというわけです。PCCとアルデヒド、セットで覚えておきましょう!

グリコールの過ヨウ素酸酸化

 これで最後です!これは今までの反応とは少し毛色が違いますよ。

隣接している炭素にOH基がついているグリコールの酸化です。酸化剤にはヨウ素を用います。

アルコールの活性化

 ヨウ素がOH基と手をつなぎ、環状過ヨウ素エステルを形成します。

酸化還元を伴う結合開裂

 ヨウ素VIIからVへと還元されるのに伴いアルコールが酸化されました。反応の見た目はシンプルなので覚えやすいですね!

 この反応で忘れてはいけないことがあります。それはcisグリコールでないと反応しないということです。transだと過ヨウ素酸と反応しません。途中ヨウ素と手をつなぐ場面がありましたが、transだとOH基が互いに離れていてヨウ素と手をつなげないのでしょう。もう一回言います、過ヨウ素酸酸化はcisのみです!

さいごに

 今回はアルコールの脱水と酸化の反応を勉強しました!初めて見る化合物が何個かあったので何回か復習してしっかり定着させましょう!では^^