京大生ケミストのつぶやき

理系京大生が勉強中に思ったことを気軽につぶやきます。

有機化学 ~Acids & Bases~ 酸の強さ

 こんにちは。今回は酸の強さについてです。酸の強さにどんな要因がかかわっているのか一緒に勉強していきましょう。

1.Electronegativity

 イオンになったときに負の電荷を帯びる原子のelectronegativity が大きいほど、酸が強いといえます。これはその原子のelectronegativity が大きいことで電子をより強く保持するためにより安定にイオンが存在することができるからです。例を見てみましょう。

O, N, C を比較すると、C < N < O の順でelectronegativity が大きくなります。同じ並びで酸も強くなっていますね。ここで注意すべきことがあります。electronegativity で比較できるのは周期表のうちの同周期の場合だけです。なぜなら周期が変わってしまうと原子の大きさや溶解に要するエネルギーなどが大きく変わってしまうからです。それらがほぼ同じとみなせる同周期の原子の場合、electronegativity で判断ができるということなのです。

2.原子の大きさ

 イオンにおいて負の電荷を帯びている原子の大きさが大きいほど、酸が強いといえます。これは原子の大きさが大きいほど、より負の電荷が非局在化することができるからです。この具体例として、methanol とmethanethiol があげられます。


O とS はともに16族であり、O は第2周期、S は第3周期です。周期が大きいほど原子の大きさは大きくなるのでS の方が大きく、よってmethanethiol の方が酸が強くなるのです。他の例も見てみましょう。HF, HCl, HBr, HI のハロゲン化水素たちです。同じ理由で周期が大きい順に原子の大きさも大きくなり、酸も強くなります。HF < HCl < HBr < HI ですね。ここで1つ留意するべき点があります。それはハロゲンのelectronegativity の大きさは、F > Cl > Br > I であるという点です。1.Electronegativity の話に反していますね。これは化学を勉強していればよく出会う例で、ある傾向同士が互いに反してしまう場合です。どちらかの傾向に実験的結果は従うので割り切ってもらうしかないです。ハロゲン化水素の酸の強さについては、原子の大きさについての傾向が当てはまるんですね。

3.電荷の非局在化

 電荷がより非局在化するとより安定することができるという話はこれまでにも出てきました。ここでは特にresonance についてcarboxylic acids とalcohols を例にみていきます。置換基のないcarboxylic acids とalcohols のpKa はそれぞれ4~5, 15~18 におさまります。ゆえにcarboxylic acids の方が酸が強いのですがこの理由は共鳴による電荷の非局在化で説明できます。

alkoxide anion の場合は、負の電荷がO にしか局在化されていません。一方carboxylic acid のイオンの場合2つの共鳴構造書くことができ、負の電荷が非局在化されていることがわかります。Carboxylic acids のconjugate base がより安定であるため、carboxylic acids がより強い酸となるんですね。

4.Inductive Effect

 次はInductive effect によるイオンの安定化の話です。Inductive effect とはelectronegativity の違いにより生じる電子密度の偏りで、電気的な極性です。Electronegativity の大きな原子が置換しているほど強い酸と言えるのですが、まずは例を見てみましょう。

C, F のelectronegativity はそれぞれ、2.5, 4.0 です。よってC-F 間ではC側にδ+、F側にδーを示す極性が現れます。このCに現れるδ+がOのマイナスを安定化させることで、イオン全体の安定さが増し、ゆえに2,2,2-trifluoroethanol の方がethanol より強い酸といえるのです。

ここでinductive effect の効力について言及したいと思います。下の図を見てください。

F がO から離れていくにつれて酸が弱くなっているのがわかります。炭素2つより離れると大きなelectronegativity をもつ原子によるinductive effect はほとんどなくなってしまいます

Carboxylic acids に関しても同じ理由でelectronegativity の大きいCl が結合しているchloroacetic acid の方がacetic acid より酸が強いです。Inductive effect の影響についても同じように、離れれば離れるほど弱まります。

5.混成軌道のs成分

 Conjugate base において負に帯電する原子の混成軌道を調べることで安定性がわかります。次を見てください。

Alkyne, alkene, alkane で比べると、alkyne > alkene > alkane の順で酸の強さが異なっています。混成軌道に着目するとこの傾向を説明することができます。負に帯電している炭素の混成軌道はalkyne から順に、 sp, sp^2, sp^3 です。そしてs軌道の割合は spから順に50%, 33%, 25% です。なぜs軌道の割合が大きいと安定性が増すのでしょうか。それはs軌道にある電子がエネルギー的に安定で、ゆえにより強く原子核に保持されるからです。言い方を変えれば、s軌道の成分が大きくなることでよりelectronegative になるのです。

さいごに

 今回は酸の強さに影響を与える要因について勉強しました。全体を通して大事な考え方はconjugate acid の安定性です。それに影響を与えるのが、electronegativity, 原子の大きさ, 電荷の非局在化, inductive effect, 混成軌道のs成分でした。

 僕が使っている教科書はAE Organic Chemistry 9e です。興味ある方は見てみてください。リンクを貼っときますね。

www.cengageasia.com

結構盛りだくさんな内容でしたね。復習もしっかりやりましょう。意見・質問ありましたらコメントください。

では^^